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富山地方裁判所 昭和56年(ワ)143号 判決

原告(反訴被告)

有限会社マツヰスタジオ

被告(反訴原告)

中島商事株式会社

ほか一名

主文

被告らは原告に対し、各自金一、〇八七、一三〇円及びこれに対する昭和五五年一二月一四日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

被告中島商事株式会社の反訴請求を棄却する。

訴訟費用は、本訴について生じた部分は被告らの負担とし、反訴について生じた部分は被告中島商事株式会社の負担とする。

この判決の一項は原告において金二〇〇、〇〇〇円の担保を供するときは仮に執行することができる。

事実

第一申立

(本訴)

一  原告

1 主文一項同旨。

2 本訴訴訟費用は被告らの負担とする。

3 仮執行宣言。

二  被告ら

1 原告の本訴請求を棄却する。

2 本訴訴訟費用は原告の負担とする。

(反訴)

一  被告会社

1 原告は被告会社に対し、金七四八、三〇〇円及び内金六九八、三〇〇円に対する昭和五五年一二月一四日から、内金五〇、〇〇〇円に対する昭和五八年九月一日から各支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

2 反訴訴訟費用は原告の負担とする。

3 仮執行宣言。

二  原告

1 主文二項同旨。

2 反訴訴訟費用は被告会社の負担とする。

第二当事者の主張

(本訴請求原因)

一  事故の発生

1 発生日時 昭和五五年一二月一四日 午前六時五五分頃

2 発生場所 新潟県中頸城郡妙高高原町大字関川六九〇番地の二先道路

3 加害車 貨物自動車(以下被告車という)

右運転者 被告 中島

4 被害車 普通乗用自動車(以下原告車という)

右運転者 訴外 松井明彦

5 態様 長野方向に向かつて進行中の原告車の前部と、反対方向から対面進行してきた被告車の前部とが衝突した。

二  責任原因

1 本件事故は、被告中島の前方の安全を充分に確認せずに被告車をセンターラインを越えて道路右側にはみ出して進行させた過失により発生したものであり、被告中島は不法行為者として本件事故により原告会社が受けた損害を賠償する責任がある。

2 本件事故は、被告中島が、被告会社の代表取締役兼使用人として、被告会社の新潟及び秋田方面の得意先へ赴く途中に発生したものであり、被告会社は本件事故により原告会社が受けた損害を賠償すべき責任がある。

三  損害

1 本件事故により、原告会社所有の原告車は損壊した。

2 右原告車の損壊による損害額は次のとおりである。

(一) 修理費 金五二一、六八〇円

(二) 車両引きあげ費 金五五、〇〇〇円

(三) 車検整備費 金九六、四五〇円

(四) 代車費 金九〇、〇〇〇円

原告車の修理のために三〇日間を要し、その間、代車を使用し、一日につき金三、〇〇〇円を要した。

(五) 評価損 金二二四、〇〇〇円

本件事故による損壊のため原告車の価値が低減した。

(六) 弁護士費用 金一〇〇、〇〇〇円

原告会社は、本訴の提起及び追行を弁護士である本件原告訴訟代理人に依頼し、そのため右額の弁護士費用を要した。

四  結語

よつて原告は被告らに対し、本件事故による損害金一、〇八七、一三〇円及びこれに対する本件事故が発生した日である昭和五五年一二月一四日から支払済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

(本訴請求原因に対する被告らの答弁)

一  本訴請求原因一項の事実は認める。

二  同二項の事実は否認する。

三  同三項の事実は知らない。

(反訴請求原因)

一  事故の発生

本訴請求原因一項記載のとおりである。

二  責任原因

1 本件事故当時、本件事故現場は、降雪のため道路一面が圧雪状態となつていたから、自動車運転者としては減速徐行し、前方の安全を充分確認して運転し、制動する場合はスリツプ等しないように注意すべき義務があるのに、訴外松井は、これを怠り時速四〇キロメートルの速度で前方の安全を充分確認することなく進行し、かつ急ブレーキをかけて原告車を右方に傾走させて道路中央部に突き込ませた過失により本件事故を惹起させた。

2(一) 訴外松井は、原告会社の専務取締役で従業員であり、本件事故は、原告会社の業務執行中に発生したものである。したがつて原告会社は、使用者として、本件事故により被告会社が受けた損害を賠償すべき義務がある。

(二) 仮に業務の執行中でなかつたとしても、次の事情により原告会社には使用者としての責任がある。

訴外松井は、原告会社の専務取締役であり、原告会社代表者の息子である。原告車は、原告会社の所有に属し、日常、原告会社の業務である広告、看板製作等の商談用に使用され、原告会社代表者ないしは訴外松井が使用していた。その他訴外松井は、原告車を、しばしば私用にも使用しており、原告会社はこれを黙認していた。

三  損害

1 本件事故により、被告会社所有の被告車は損壊した。

2 右被告車の損壊による損害額は次のとおりである。

(一) 修理費 金六一八、三〇〇円

(1) 美研塗装有限会社支払分 金四五五、〇〇〇円

(2) 高原オートサービス支払分 金三六、五〇〇円

(3) 長野日産自動車(株)支払分 金四六、〇〇〇円

(4) 原山自動車整備工場支払分 金八〇、八〇〇円

(二) 車両引きあげ費 金三〇、〇〇〇円

(1) 高原産業支払分 金一五、〇〇〇円

(2) 高原オートサービス支払分 金一五、〇〇〇円

(三) 車検費 金五〇、〇〇〇円

(四) 弁護士費用 金五〇、〇〇〇円

原告会社は、本件反訴の提起及び追行を本件被告代理人に依頼し、そのため右額の弁護士費用を要した。

四  結語

よつて被告会社は原告に対し、本件事故による損害金七四八、三〇〇円及び内弁護士費用を除いた金六九八、三〇〇円に対する本件事故が発生した日である昭和五五年一二月一四日から、内弁護士費用金五〇、〇〇〇円に対する本件口頭弁論終結の日の翌日である昭和五八年九月一日から各支払済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

(反訴請求原因に対する原告の答弁)

一  反訴請求原因一項の事実は認める。

二  同二項の内、訴外松井が原告会社の取締役兼従業員であることは認め、同項その余の事実は争う。

三  同三項の事実は争う。

第三証拠

証拠関係は、本件記録中の証拠関係目録記載のとおりであるからこれをここに引用する。

理由

一  事故の発生

本訴請求原因一項(反訴請求原因一項)の事実は当事者間で争いがない。

二  責任

1(一)  成立に争いのない甲第一三、第一五、第一六号証、第一七号証の一、第一八号証、原本の存在及びその成立に争いのない甲第五、第六号証、乙第一一、第一三号証、本件事故現場付近を撮影した写真であることが当事者間で争いのない甲第七ないし第九号証、甲第一七号証の二ないし二五によれば、本件事故現場は、長野県方面から新潟県新井市方面に向かつて、ほぼ南北に走る国道一八号線であること、道路の東側部分に歩道が設けられ、車道はアスフアルト舗装がなされていること、本件事故現場付近では、車道が西側部分に拡張されて待避所が設けられており、そのため車道の幅員が最大部分で一五・六メートルあること、待避所から北側(新井市方面)の車道の幅員は八メートル、南側(長野県方面)の車道の幅員は一〇・三メートルとなつていること、待避所から南方へ向かつてはゆるやかな下り坂となり、かつ、ゆるやかな右カーブとなつているが、本件事故現場付近ではほぼ平坦で、道路の見透しも良いこと、本件事故当時、本件事故現場付近では、道路標識及び道路表示(車道中央線の黄色の実線)により、追越のための右側部分はみ出し禁止の規制、最高速度時速四〇キロメートルの規制がなされていたこと、本件事故当時、本件事故現場付近では、天候は雪で、車道に積もつた雪が厚さ約二センチメートルの圧雪状態となつており、そのため前記黄色の中央線が見えない状態であつたこと、しかし積雪により車道の通行可能な幅員がせばめられるという状態にはなつておらず、道路中央線もほぼ認識でき、又車道と歩道との境も明確に確認しうる状態であつたこと、原告車及び被告車の車幅はいずれも一・六九メートルであつたことが認められる。

(二)  前掲甲第五ないし第九号証、第一三、第一五、第一六号証、第一七号証の一ないし二五、第一八号証、乙第一三号証、本件事故後に被告車を撮影した写真であることが当事者間に争いのない甲第一〇号証、本件事故後に原告車を撮影した写真であることが当事者間に争いのない甲第一一号証、原本の存在及びその成立に争いのない乙第一〇ないし第一二号証、第一四号証、証人松井明彦、同松井英子、同中島幸子の各証言を総合すれば、訴外松井は、原告車を運転し、国道一八号線を新井市方面から長野県方面へ向かつて、道路の左側車線(東側車線)の中央線寄りを時速約四〇キロメートルの速度で南進し、本件事故現場の手前約四三メートル付近で、前方約七七メートルの地点を対向して来る被告車を発見したが前記速度のまま進行し、約二五メートル進行した地点で、前方約三二メートルの地点に被告車が中央線から右側(原告車から向かつて左側)にはみ出して進行してきていることに気付き、衝突の危険を感じて急ブレーキを踏んだが、約一八メートル直進した地点で原告車の右前部と被告車の右前部とが衝突したこと、被告中島は、被告車を運転し、国道一八号線を長野県方面から新井市方面に向かつて時速約二五ないし三〇キロメートルの速度で進行し、本件事故現場の手前では道路の中央線より右側にはみ出して進行し、衝突地点の直前で原告車との衝突の危険を感じたが何らの処置もとり得ず前記のとおり衝突したこと、衝突地点は、中央線から東側〇・九メートルの地点であることがそれぞれ認められ、右認定に反する乙第一〇ないし第一二号証、第一四号証の供述記載部分は前掲各証拠に照らしてたやすく採用できず他に右認定を覆すに足る証拠はない。

(三)  以上認定の事実によれば、本件事故は、被告中島の被告車を運転し、漫然と道路の中央線より右側にはみ出して進行した過失により発生したものであることが認められ、一方訴外松井に過失があつたものとは認められない。したがつて被告中島は、本件事故によつて原告会社が受けた損害を賠償すべき義務がある。

2  前掲乙第一一号証、証人中島幸子の証言によれば、被告会社は革靴の販売を業とする株式会社であり、被告中島はその代表取締役であること、本件事故は、被告中島が、約二週間の予定で被告会社の新潟及び秋田方面の得意先を廻るため被告会社所有の被告車に革靴を積載して運転し新潟方面へ向かつていた際に発生したものであることが認められる。

右認定の事実及び前記本件事故が被告中島の過失により発生したものであることによれば、被告会社は商法二六一条三項、七八条二項、民法四四条により本件事故により原告会社が受けた損害を賠償すべき義務がある。

三1  本件事故の態様、前掲甲第五、第一一、第一三号証、証人松井明彦、同松井英子の各証言を総合すれば、本件事故により、原告会社所有の原告車の前部が損壊し、エンジンの始動が不能となり運転不能となつたことが認められる。

2(一)  修理費 金五二一、六八〇円

証人松井英子の証言により真正に成立したものと認められる甲第一号証、証人松井英子、同松井明彦の各証言によれば、原告会社は、右原告車の損壊部分を、訴外富山トヨタ自動車株式会社に依頼して、修理し、その費用として金五二一、六八〇円を要したことが認められる。

(二)  車検整備費 金九六、四五〇円

前掲甲第一号証、証人松井英子、同松井明彦の各証言によれば、右原告車の損壊により原告車の車検及びそのための整備が必要となりその費用として金九六、四五〇円を要したことが認められる。

(三)  車両運搬費 金五五、〇〇〇円

前掲甲第一号証、証人松井英子の証言、前記原告車の損壊状況を総合すれば、本件事故により原告車が運転不能となつたことから原告会社は、業者に依頼して、原告車を本件事故現場から富山市まで運搬し、その費用として金五五、〇〇〇円を要したことが認められる。

(四)  代車費用 金九〇、〇〇〇円

証人松井明彦の証言により真正に成立したものと認められる甲第一二号証、証人松井英子、同松井明彦の各証言によれば、前記原告車の修理のため三〇日間を要し、その間、原告車を使用し得なかつたことから、訴外中島自動車工業から自動車一台を借り受けて使用し、その費用として金九〇、〇〇〇円を要したことが認められる。

(五)  評価損 金二二四、〇〇〇円

証人松井明彦の証言及びそれにより真正に成立したものと認められる甲第二号証によれば、本件事故による損壊のため、原告車の価値が低減したところ、その減価額は金二二四、〇〇〇円であることが認められる。

(六)  弁護士費用 金一〇〇、〇〇〇円

原告会社が、本訴の提起及び追行を弁護士である本件原告訴訟代理人に依頼したことは本件記録により明らかであるところ、本件訴の内容、前記認定による認容額等を考慮すれば、本件事故により被告らが負担すべき弁護士費用の額は金一〇〇、〇〇〇円が相当である。

四  結語

以上により原告会社の本訴請求は理由があるのでこれを認容し、被告会社の反訴請求は理由がないのでこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九三条を、仮執行の宣言につき同法一九六条をそれぞれ適用し、主文のとおり判決する。

(裁判官 寺崎次郎)

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